輿入れまでの半年、フィオナはブライト王国の歴史とオズボーン王国の歴史や文化を学び、比較していた。

 仲が悪いのが当然だと思えるくらい、ふたつの国は成り立ちから違う。
 ブライト王国は、元は名もない平民たちの国だ。ルングレン山に捨てられた孤児たちが集まり、村を作ったことが始まりで、捨てられた孤児たちは、皆ルングレン山の聖獣たちに助けられた。だからこそ、なによりも聖獣たちを大切に思っているのだ。やがて人が増え、村が街になり、国になる。その中で、一番強い狼の聖獣と仲の良かった青年が、初代国王となったのだ。
 やがて王家の血筋が固まっていき世襲制となったが、王となる者は、王家の子の中で一番強い聖獣の加護を得たものが王になるという風習は残ったままである。

 一方、オズボーン王国は、かつて大陸全土を制圧していたボーン帝国が滅亡した際に、その王家の血筋が再び起こした国である。帝国の血に対するこだわりが強く、正妃は必ずボーン帝国ゆかりの家柄から選ばれた。同族による婚姻が推奨され、肌の色の違いで差別されることも少なくない。
 そのくせ、戦争の終結は結婚で締めることが多い。人質のように側妃を娶り、他国を抑えつけるのだ。現王も正妃のほかに五人の妻がいる。

(まあ、平たく言うと、昔の血にこだわった傲慢な一族だってことね)

 フィオナは、オズボーン王国のことをそう結論付けた。婚約者となるオスニエルのことも、今まで繰り返した人生である程度分かっている。

 夜の闇から生まれ出たような、漆黒の髪、それに対して、瞳は爽やかな夏の空のような濃い青色の美丈夫だ。武力の誉れ高い国であるがゆえ、王太子といっても武闘派だ。筋骨隆々とした体つきに、彫の深い目鼻立ちがマッチしていて、見た目だけで言えば、とても格好いい。正直に言えば好みだ。が、性格は最悪だ。フィオナが慣れぬ王宮生活で苦しんでいるときも、ねぎらいのひと言もなかった。側妃にと望んだくせに、一晩だって同じベッドに入ることなどなかった。

(でも、今の私にとっては好都合とも言えるわ)

 もう、夫の愛など望んでいない。あくまで人質だというなら、部屋で出来る趣味を持ち、楽しく生きてやる。