はぁっ……はぁっ……。


荒い呼吸音が暗い闇の中に解けていく。


灰色の階段を一段飛ばしで駆け上がるあたしの前に現れたのは、《立ち入り禁止》の張り紙だった。


セロファンテープで貼り付けられて今にも剥がれ落ちてしまいそうなその張り紙を無視し、ドアに手をかけた。


ドアは普通のものより重たくて、体重をかけて押し開いた。


目の前に現れた光景は満点の星空だった。


15階建てマンションの屋上はなににも遮られるものがなく、まるで田舎ののっぱらに寝転んで見る星空のようだった。


あたしはその星空に一瞬呼吸を忘れ、それから視線を下へと移動させた。


屋上の手すりの向こうに人影が見える。


その人は闇に溶けてしまいそうな黒い服を着ていた。


本当は紺色なのだけれど、深夜の今ではその色合いはわからなかった。


「~~っ!」


あたしはその人物の名前を呼ぶ。


その人物は振り向いた。


月明かりの中で、その人の顔だけはやけにはっきりと捉えることができた。


あたしはまた名前を呼ぶ。


そして近づこうとした次の瞬間……その人物はフェンスの向こう側から姿を消していた。


あたしは慌てて駆け出し、その人物が立っていた場所まで移動した。


フェンス越しに下を除いてみると、かすかに人の形が見えた。


それは地面に叩きつけられ、手足があらぬ方向へ捻じ曲がり、そして動かなかった。