僕が紫恩の家で暮らし始めて数日が経った。紫恩は、僕の両親と話をしてくれたんだけど……聞いても詳しくは教えてくれないんだ。

家を出て、僕は通学路を歩く。

「……どうして、何も教えてくれないんだろう……」

紫恩は、どうして初対面の僕に優しくしてくれるんだ?

紫恩はいつも涼しげな笑顔を浮かべて、僕にご飯を作ってくれたり僕を起こしてくれたりするんだ。

そう言えば、紫恩って僕と同じ学校に通ってたんだね。紫恩は遅刻常習犯みたいだし、良く授業をサボるみたいだから知らなかった……。

「……」

紫恩のことを考えながら歩いてると、学校に着いた。廊下を歩いてると、見慣れた紫のグラデーションがかかった黒髪を見つけて、僕は立ち止まる。

壁にもたれかかって、真剣に本を読んでいる紫恩がいた。紫恩の周りには、誰もいない。皆は、紫恩から少し離れた所にいる。

「……」

紫恩と目が合うけど、紫恩はすぐに本に目を移した。

そして、紫恩は本を閉じると無言でどこかへと歩いていく。紫恩の表情は無表情だけど、どこか儚げで僕が手を伸ばすだけで消えてしまいそうだった。

「……」

僕は紫恩の姿が見えなくなるまで、その場で立っていることしか出来なかった。