2月に入ってちょうど2週間が経つ2月14日。

何の日でしょう、なんて誰でもきっと分かるよね。
世の中の女子はこの日のために気合いを入れて準備をして、男子はこの日は一日中そわそわして…

そう、バレンタイン。

榊原椿(さかきばらつばき)、18歳。
私も世の中の女子であることに変わりなく、目の前にはいかにもなガトーショコラとマカロン。


「2つもなんて、気合い入れすぎかな…」


見るからに本命なこの2つを味見してみると我ながら素晴らしい味だ。

これを送る相手はもちろんただ1人。

浅倉春樹(あさくらはるき)
同級生で幼馴染で私の好き旦那様。

今をときめく新人モデルの彼は今日も仕事でもうすぐ帰ってくる頃だ。


「…急いでラッピングしなきゃ。」



***



「ただいま〜」


ふと聞こえてきた声に駆け足で玄関に向かう。


「おかえり。荷物持とうか?」

「ありがと。」


彼から荷物を受け取って気づく、朝は持っていなかったはずの紙袋。


あ、チョコレートだ。それに何個も。


どれもお店で売ってる綺麗な包装がされたやつで。
なかには有名な高級チョコレートもある。


ただの高校生の私には到底買えそうにないものばかりだな…
ましてや手作りなんて、敵うはずがない…


渡しにくいな、なんて思いながら2人で並んでリビングに入る。




***



「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした。」


いつもとおなじ時間に夕食を食べて、片付けをする。


この季節になると食器洗うだけでも手が痛いな…


全部洗い物を済ませて冷蔵庫をチラッと見る。


なかなかあげられないな…
頑張って作ったけど…


「椿、終わったんならこっちおいで〜」

「あっ、分かったー」


ソファーに座ってテレビを見ていた春樹の隣に座るとすぐに手を引かれた。
気がつけば膝の上に座るかたちに。


「寒いのにいつもありがとね。」


私の冷えた手を包み込む大きな手。
ありがとうだなんて、私に出来ることをしているだけなのに感謝されるのはもどかしい。


「…ところでなんだけどさ、椿はくれないの?」

「えっ?」

「…チョコ。」


後ろから抱きつきながらぼそっと呟く。
小学生が不貞腐れたみたいに口を尖らせてるのが分かる。


…かわいい
って、そうじゃなくて、


「だって春樹沢山貰ってたじゃん、高そうなの…」


そりゃあ、私もあげようと思ってたけど、あんなの見ちゃったら…
私のなんて…
それに、


「他の女の子からたくさん貰ったんでしょ…?」


ヤキモチ、自分でもわかる。
でも、春樹は私の旦那さんだもん…


「ふふっ」

「なんで笑うのよ!」

「ごめんごめん。いやだって、可愛くてつい。」


可愛いって言ったって騙されない。


「勘違いしないで。俺はいつまでも椿一筋。」


そう言って左手の薬指にキスをされる。


「そうは言ってもチョコ貰ってるじゃん!」

「あれは椿に。帰り道バレンタインだなって思い出して買ってきたの。どれがいいか分からなくてたくさん。」


…え?


「ってことで、チョコは?まさかないとは言わないよね?」

「…待ってて。」


赤くなった顔を隠すようにして冷蔵庫に向かう。
可愛いラッピングの箱を手に春樹の元に戻る。


「はい、ハッピーバレンタイン…」

「ありがと!」


語尾に♡が付きそうな甘い声。
彼の手には、あっという間に開けられた私の作ったガトーショコラとマカロン。

だけど、なかなか手をつけてくれない。


「…気に入らなかった?」


恐る恐る聞いてみる。


「あーん。」

「え?」

「あーんしてよ。」


そういうことね。
ここで断る理由もないので言われる通りに従う。


「うん、美味しい!ありがと。」


私の唇に柔らかい感触。


「ハッピーバレンタイン!」


そう言って何度もキスをされる。

そのキスはいつもの何倍も甘くてとろけそうな、そんな味_