「明るいうちから飲んでていいの?」

「やることないんですもん。お店開いてたし。」

「準備中って文字、見えなかったか?」


 パーティーから数日が経ち、私は零士さんのお店に来ていた。それは、まだ夕方4時のこと。


「そろそろ仕事探さなくちゃなー。」

 ぶつぶつとそう言いながら、お酒のグラスを手にため息をつく。

 結婚してからフリーターを極めている私は、バーカウンターに突っ伏し、愚痴をこぼしていた。


 キャンドルも、いつものクラシック音楽もない、開店前の店内。零士さんが片付けるグラスがカチャカチャと音を立てるだけで、しんと静まり返っている。


「千秋とは?うまいことやってる?」

「はい。あー、でも、いまだに謎だらけで。なんの仕事してるかも教えてくれないんですよ??秘密主義というか、なんというか。」

 私はおもむろに起き上がり、ハハッと無理やり笑顔を作る。

 頬杖をつきながら、お酒の入ったグラスを回し、カラカラと氷の音を聞いた。それは、心地のいい音だった。


「聞かないんだ。千秋が何してるか。」

 ボーッとしていると、突然そう言った零士さん。

「俺が知ってるって分かってるはずなのに、晴日ちゃん聞いてこようとしないから。」

 思わず顔を上げると、カウンターの中から身を乗り出すように両腕をついて、こちらを見ていた。