「……佳。……真佳、真佳!」
名前が呼ばれていることに気がついて、ハッと顔を上げた。
握っていたお箸を落としてしまって、からんと床に転がる。
「あー、もう」
呆れたようにそう言ったお兄ちゃんは、テーブルの下に潜り込んでお箸を拾い上げた。
拾ったお箸を丁寧に洗って、私に「はい」と手渡す。
「あり、がと……」
「どういたしまして。────で、どした?」
え、と返した言葉は変に上擦って、余計にお兄ちゃんは怪訝な顔をする。
「真佳、昨日帰ってきた時から変だよ。暗い顔してたし、ずっと上の空って感じ」
「なんでも……」
「何でもなくないだろ、見ればわかるよ。流石に下手な嘘つくと怒るよ」
そう言われて口をとざす。
『この話、私と真佳ちゃんの秘密ね。もちろん、真守くんにも。だって真佳ちゃん、誰かにバレると困るでしょ? まあ、私は誰に知られても困らないけれど』
あんなこと、言えるわけが無い。
「……進路のこと、まだ悩んでて。正樹叔父さんから色々聞いたら、余計分からなくなっちゃったの」