「毎度おなじみシアワセ・クリーン・サービスです!」

日曜の午前、けたたましいチャイムと共に部屋に響き渡ったのは、まったくもって聞き覚えのない会社の名前を連呼する男の声だった。

枕元のスマホが示す時刻は午前9時。
平日ならともかく、大多数の仕事が休みとなる日曜では、まだ早いと見なされる時間帯であろう。

私はスマホを元に戻すと、居留守を決め込むことにした。

掃除代行だか配達クリーニングだか知らないが、どうせどこかの会社の営業だろう。
このマンションは単身者向けだし、日曜のこの時間なら普段仕事に出てる住人も在宅確率が高いと踏んでの奇襲に違いない。
そんな手慣れた営業の相手をするほど私は暇じゃないし、元気でもないのだから。

「おはようございます!シアワセ・クリーン・サービスです」

だが男は諦めない。
よほどきついノルマでもあるのだろうか。いや、だとしたら、返事すらない家などすぐに切り捨てて次へ次へと巡るはずだ。

「橋本さまー!おはようございます!シアワセ・クリーン・サービスです!」

とうとう名指しで呼びかけはじめた男に、私の寝ぼけ眼もピリッと覚めてしまう。
そして男の声が意外にいい声だということにも気がついた。
これだけいい声だから、それに惹かれて扉を開けてしまう女性もいるんだろうな……
そんなどうでもいいことを思いながらも、絶対に出るつもりがない私は、掛け布団を引っ張りあげて潜り込む。
だが、ふと、違和感がよぎった。

………表札を出してないのに、どうして私の名前を知ってるの?
しかも、先週ここに引っ越してきたばかりなのに。

違和感は不審に変わり、私は布団から顔を出さずにはいられなくなった。