「エスター様。これが頼まれていた薬草です」

「ありがとう。やっと注文を受けた薬が作れるわ」


 城に来てから、ひと月が経った。

 花を咲かせていた木が緑に変わる五月、爽やかな風に吹かれて薬師としての仕事に精を出す。

 寝泊まりする部屋は以前と変わらず、食事も三食提供してくれる。城の使用人は皆優しくて、やっと名前も覚えてきた。

 はじめはこの容姿や噂のせいか、キツい性格の魔性の女だと思われていたようだが、今では温かく受け入れてくれている。

 あぁ、こんな人間らしい生活を送れるなんて夢みたい。それに、素敵な日課もできた。


「ラヴィス。今日のおやつはボナさんに教わってスコーンを焼いてみたの。美味しそうでしょ?」


 近くの町や農村から注文を受けて薬師の仕事をするかたわら、昼休みには庭でラヴィスとお茶会をしている。

 お茶会といっても、私がお菓子を持ってきて日向ぼっこをするラヴィスに話しかけながら食べるだけなのだが、それは今までの人生の中で一番の癒しであった。