車の後部座席で、授業の予定と放課後の仁葵の予定を確認するのは朝の日課のひとつだ。

俺、三船剣馬は花岡仁葵のボディーガードであって執事じゃない。
ただ仁葵は昔からうっかりしているところがあるので、幼なじみとして彼女が困らないようチェックしてやっているだけだ。


「……おい、仁葵。寝るな」


ふと隣を見ると、仁葵がこくりこくりと船をこいでいたので声をかける。
そういえば家を出てきたときからぼんやりと眠そうな顔をしていたな。

寝ぐせはない。よだれのあともない。
身支度が完璧に済んでいるのは、花岡家のメイドたちのおかげなのだろう。


「う~……眠い」
「寝不足か?」


どうせ仲の良い本間と遅くまで電話でもしていたんだろう。
そう思って聞いた俺だが、次の瞬間その予想はあっさりと裏切られた。


「昨日、夜中まで狼くんとLINEしちゃってたから……」


仁葵の小さな唇からこぼれ出た名前に、思わず舌打ちする。