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 その日は冬の一番寒い日だったのを覚えている。


「蒼井さん、ずっと好きでした」


 これは夢だろうか。元サッカー部の人気者、佐々木君に呼び出された地点で、もしかして……って期待してなくはなかったけど、まさか本当に告白されるとは夢にも思っていなかった。

 ……何かの罰ゲームじゃないよね!? なんて私は周りを見渡す。けれどとっくに授業の終わった放課後の音楽室に人の気配はない。


「あの、俺と付き合ってください」


 照れたように目を泳がせながら顔がどんどん朱に染まっていくのは、窓の外の景色が赤く染まっているせいではなさそうだ。自分の耳が熱い。私も佐々木君と同じように朱に染まり始めているよう。

 そうなっても仕方がない。だって私はずっと、佐々木君のことが好きだったから。


「こっ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 しまった、勢いつけすぎた。私は腰を九十度折り曲げ、頭を勢いよく下げた。告白されてる側の立場のくせに、まるでがっついてるような態度に、頭を下げたままで私は苦笑いを零す。

 私のがっついた返事に引いてしまったのだろうか……? 佐々木君が無言だ。無言は恐怖だ。恐れながらも私は、そろそろと顔を上げた。


「……よかった」


 同い年なのにお互い敬語で言い合ってたのが嘘のよう。ぎこちない空気を打ち破ったのは、破顔一笑した佐々木君の表情だった。