時が経つと私はシナリオ通り魔法学園に入学した。
 シナリオに逆らうことも考えたが、私はこの学園の教師になりたい。だとしたら実際に通うことが採用への近道だ。
 何故ならこの世界に教員免許というものは存在せず、校長の一存で採用は認められる。

 入学すると私はシナリオには目もくれず勉強に没頭した。
 どうすれば教師として採用されるか、明確な基準が定められていないのだ。とにかく勉強に励むしかないだろう。
 もちろん予定通り学園に入学しているのだから、あちこちに見知った顔もあった。

 忙しなく校舎を駆け回る姿が愛らしい少女。

 明るく、クラスの中心にいる華やかな顔立ちの青年。

 王子である事を隠さず、共に学ぼうとする青年。

 馴れ馴れしく距離を詰めてくる教師。

 ゲームではそんな彼ら活躍ばかりに注目が集まっていたが、どうやら私の実力も悪い方ではないらしい。学べば学ぶほど、私は魔法の世界にのめり込み、成績に反映されていった。

 そんな努力のかいもあり、卒業が決まった頃、ついに私は学園教師の採用試験を受けられるようになった。
 実技と筆記試験を難なくクリアした私が挑むのは、最後の校長面接だ。

 あと一歩で夢が叶う!

 試験管である校長は、歴史上初めての女性校長だ。ゲームにも登場するその姿は、私の記憶にあるものと一致している。
 年齢を刻んだ顔立ちは厳しそうに見えるが、優しい人である事を知っていた。すっと伸び上がった背筋に、冷たそうな印象のメガネは、相対するとゲーム以上に緊張感漂う。

「エリナ・フェブラリーさん。貴女の試験結果はどれも素晴らしいものだわ。校長として、貴女のような教師を迎えられたのなら誇らしいことでしょう」

 校長の口調は厳しいが、評価自体は悪くない。良い評価を得られたことを嬉しく思った。

「けどねぇ……」

 舞い上がりかけた意識が引き戻される。あまり良い雰囲気の発言ではないことは確かだった。

「わたしも貴女の実力は認めているのよ。けど、貴女には苦情が寄せられているの。それも、何件もね」

 変な声を出さなかったことも、立ち上がって椅子を倒さなかった自分も褒めてあげたい。

 誰よりも模範的な生徒であり続けたこの私に苦情ですって!?