“いいですか、皆さん。よく聞いてください。

何があっても、麗蘭街(れいらんがい)に行ってはいけません――…”。



幼い頃から、家族はもちろん近所のおじちゃんとおばちゃんも

学校の先生、見知らぬ人ですら言っていたこと。



…大人たちが常に、忠告のごとく口にしていたその言葉は

わたしの渇き切った心の底を、どこか妖しく魅了していたように思うのだ――…。




「ねぇねぇ大ニュース!レナ、昨日の夜中に麗蘭街で補導されたって!」

「えっ何それヤバくない!?」

「マジかよ!っつーか夜中!?」

「そもそも日付変わって麗蘭街に居る時点で、レナも結構リスキーだよね」

「それ思った!やるなら上手くやってくれないと、立ち入り禁止とかになったらどうしてくれんのって感じ」

「本当に!ただでさえ居られる時間が限られてる街なんだからさぁー…」



朝、少し前まで人がまばらだったはずの教室は、あっという間に賑わいを見せていた。

談笑を楽しむ人、部活の朝練から帰って来た人、本を読んでいる人など様々で。


けれどクラスメイトの一人が少し息を切らして教室へ駆け込んでくると、それなりだった空間が一気にざわめき出す。



…その混ざり合う声たちは、調和がとれているはずもなく

机に向かうわたしは黙って顔をしかめたのだった。