『――…次は終点、麗蘭街に停まります――…』



――…午後7時。

聞き慣れている落ち着いたアナウンスは、今日はやけに無機質じみている。


暗闇の中をひた走る地下鉄に揺られて10分程度だろうか。

閉じていた瞼をゆっくり開けると、自分が青白い空間に居ることを思い知らされる。




「莉菜、起きて」

「……ん…」

「もう着くよ」



乗車してすぐわたしの肩に寄りかかった莉菜は、すぐさま眠りの世界へと誘われていたらしい。

…彼女の特技はどこでも寝られることだと聞いたことがある。正直に抱いた羨望を口にすることはないけれど、家でも基本的に寝つきが悪いわたしからしたら羨ましい限りだ。



「朱里、肩ありがと…」

「うん」



車内の揺れが緩やかになってすぐ、窓の外にホームが見えてくる。

莉菜が纏うピーチローズの香りを感じながら、ぼんやりとこれからを思った。



『まもなく、麗蘭街――…、麗蘭街に停まります――…。

――…ご降車のお客様で未成年の方は、日付が変わる前のご帰宅をお勧めしております――…』




…着いてしまう。


黒にまみれ、危険を孕んでいると知りながら

多くの人が足を踏み入れる、魅惑の街に。