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一ノ瀬くんと初めて話したのは、
受験を2か月後に控えた
中学3年の冬のこと。


すごく寒い日で、
手袋を外しながら
塾の最上階にある教室に入ると、
男子がなにやら騒いでいた。


「なぁ、なんでこの席、
いつも空いてんの?」


「あー、あれだろ、
西岡中の一ノ瀬じゃね?
バスケで全国大会でてるヤツ」

同じ中学の山田の声が響く。


「なんかチャラそうな奴だよな」


「この時期にバスケとか、
中途半端じゃね? 
結局、塾だってちゃんと来てないしさ」


「俺はまだ、
部活を頑張ってますよーって言って、
女にチヤホヤされたいだけだろ」


「どうせ、そいつ、
スポーツ推薦狙ってるんだろ。

こっちは真剣に受験勉強してるんだから
勘弁してほしいよな」


「そもそも、
なんであいつが
この最上位クラスにいるわけ?」


「ま、末席だけどな。ザマーミロ的な?」


その言葉に、
教室が冷たい笑いに包まれた。


受験前でストレス溜まる時期だけど、
こんな会話なんだか嫌だ。


そう思っていると、
壁に張り出してある
新しい席次表が目に入った。

教室の席次は模試の成績順に決まる。


「ねえ、ねえ。
今回のテストの
このクラスの末席は私だよ」


その一言に男子の視線が、
一斉に私に向けられた。