教室にもどると、
昼練を終えて制服に着替えた一ノ瀬くんが
机にうつ伏せて眠っている。


風にそよぐ一ノ瀬くんの髪を
ぼんやりと眺めていると、

うっすらとまぶたを開いた
一ノ瀬くんと目が合った。


すると、寝ぼけているのか、

太陽の光に包まれた一ノ瀬くんが
頬をゆるめて
ふわりとほほえむ。

  
っ‼︎

その柔らかな笑顔に、
心臓が大きく飛び跳ねた。


な、なんて、破壊力!

居眠りしながら
こんな甘い笑顔を見せるなんて!


一ノ瀬くんの笑顔に
大きく動揺していると、
 
「天野っ!」

と、大きな声で名前を呼ばれた。


視線を上げると、

教室の前の扉から
同じ中学出身の山田が、
ちょこんと顔を出している。


「天野、英語Ⅱの教科書もってる?」


「もってるよ」


お調子ものの山田は、
よくうちのクラスに遊びに来る。


手招きする山田に近づいたところで
いきなり、おでこを指で弾かれた。


「痛いっ……」


「お前、相変わらずちっこいからな。
これで背、伸びるんじゃね?」


ひ、ひどい。


「……さようなら」


ヒリヒリと痛むおでこを
手のひらでさすりながら、

ガラガラと扉を閉めると、
山田が慌てて扉をおさえた。


「冗談だってば! 教科書貸せよ」


「借りるのに、その態度!
山田にはもう貸さないっ。

ばいばい。朝歌に借りて」


朝歌も私と山田と同じ中学出身。


「羽衣様、お願いしますっ。
今度アイスクリームおごるから!」


もうっ!

拝み倒す山田に、
しぶしぶと教科書をとりにいく。


机から教科書を取り出していると、
うっすらと目を開けた一ノ瀬くんと
目が合った。


ややっ!