「ただいま。お父さん」
彼女……もとい水野が自らの実家のドアを開けると、出迎えるのはにこやかなる彼女の父。
「おかえり、小春。寒いだろ?こたつに早く入りなさい。小春の好きなバウムクーヘンもあるぞ」
「お久しぶりです。おじさん」
俺は彼女の父、もといおじさんに努めて笑顔を貼り付けた。
毎回のことながら、この瞬間が苦手だ。
「………………」
「俊君、いらっしゃい~また良い男になって。ね?まだ遅くないわ。私にしない?」
「お母さん、毎回いい加減にして!お父さんも榊田君のこと無視しないの!」
怖い。
水野のおやじさんの睨みは毎回怖い。
何だか、涙目なのに怖い。
涙目だから怖いのだろうか。
そんなことを思いつつ、あいさつをする。
「また数日間お世話になりますが、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた、俺におじさんは無愛想ながら口を開いた。
「勝手にすれば良い。だがなっ!絶対に、ぜった~いに!小春の部屋で寝ることは許さん!客間だ!君はただの客人だ!」
最後は叫び、そして涙目のまま居間へと走って行った。
とにかく、第一関門突破。
「毎回毎回、良く同じことを同じ顔をして言えるわね~もう今年で三年三回目」
彼女の母、もといおばさんは、はぁ、と実におっとりとため息を吐いた。
「私も今日は客間で寝ようかしら?良いでしょ?俊君」
「ちょっと、お母さん!いい加減にして。それも毎年毎年言ってる!」
おばさんを睨みつける水野の姿も毎年の恒例。
自分の母親にも妬いている姿を見ると何だか気分が良いのも恒例。
そう。
やっぱり、俺の世界は水野小春を中心に回っているのだ。