――高校2年生の5月。

政治家の娘である私、森泉愛菜(もりいずみ あいな)はお父さんの付き添いとして、あるパーティーに出席していた。


「森泉先生の娘さんか、美人になったね。ぜひ、うちの息子を紹介したいな」


今日のパーティーは親睦会のようなものらしいのだけれど、こうしてお父さんの同僚の人たちがお見合いを勧めてくるから困る。


「私はまだ16です。それに将来、父を助けられるように今は勉学に励みたいと思っています」


そう言って微笑むと、私は紺色のシフォンドレスの裾を軽く持ち上げて腰をかがめ、優雅にお辞儀をした。

政治家の一族に生まれた私は、小さい頃から『淑女たるもの』が口癖の教育係の先生に、食事や会話のマナーをはじめ、語学をみっちり叩き込まれている。

他にもこういった場で必要となる社交ダンスに、うちが主催で行う自宅パーティーなどでお客様をもてなせるようピアノやバイオリンも身に着けさせられた。

でも、こういうときの逃げ方ばっかりは習わなかった。

「それでは、お父さま。こみいった話もあるでしょう? 私は外の空気でも吸ってきますね」


もう一度、話しかけてきたお父さんの知り合いにペコリと頭を下げてその場から立ち去る。

そのまま迷わず足を進めて、こっそりバルコニーに出た。

優雅なクラシック音楽と人のざわめきが少しだけ遠ざかった気がして、私はほっと息をつく。

お父さんの大事なお仕事の仲間なんだし、しっかり対応しなきゃとは思うんだけど……。