伊勢谷(いせや)先輩ってほんとに完璧な人だよね!」


興奮したあたしの大声が、淡い黄昏(たそがれ)色に染まった教室の空気を、一瞬で破壊した。


帰宅までの穏やかな時間をそれぞれ過ごしていたクラスメイトたちの視線が、ドッと集中する。


あ、ヤバ。注目されちゃった。


あたしは、周りをチラ見しながら肩をヒョイとすぼめた。


入学して一ヶ月。まだそれほど馴染んでいないクラスの中で目立つのは、さすがにちょっと恥ずかしい。


大好きな伊勢谷司(いせやつかさ)先輩のカッコよさを熱弁しているうちに、つい夢中になっちゃった。


「ねえ、真央(まお)ちゃん。あたしの話ちゃんと聞いてるの? もしかして寝てる?」


これ以上注目を浴びないように声のボリュームを落として、あたしは向かいに座っている親友の真央ちゃんに話しかけた。


だって真央ちゃんたら、なにを話してもさっきからずっと無反応なんだもの。


その無表情な顔の前で片手をヒラヒラ動かしたら、真央ちゃんが軽くため息をつきながらやっと答えた。