『何だかんだ言って、上手くいってるってことじゃない』

「そ、そうかな……?」

次の日、智大が出勤していなくなった一人きりの家でスマホが鳴った。
見てみるとそろそろ臨月に入る千栄からの電話で、藍里は電話に出ると簡単に近況を報告しあい、昨夜の話にまで話題が及んだ。

『お互いがお互い良い匂いだって思ったんでしょ?それはもう、お互いが好きあってるってことよ!』

「でも、たまたまかもしれないし……。それに私、今までそんなこと感じなかったよ?」

一緒に暮らしていて近くにいたことも何度か抱きしめられていたこともあったのに、匂いなんて感じなかった。
なのに今は洗濯した後の智大の服からでさえ微かに残り香がして、胸がキュンとなる。

今までそんなことなかったのに、だ。

『前までは、好きの気持ちよりも怖い気持ちの方が全面に出すぎて分からなくなってただけかもしれないわね。
で、恐怖より好意の方が上回ると、運命的に匂いレベルで永瀬の事を好きだったと気付いた……みたいな?』

「匂いレベル……」

『良かったじゃない、一生恐怖の産物と一緒にいないといけない訳じゃなくなって、順番は違えど両想いになれたんだから。
……永瀬の不器用具合には驚かされたと言うか、腹立たしかったけどね』

最後にボソッと呟かれた一言に藍里は一人で苦笑をもらした。