そして今日。ギプスも外れ、明日から通院の必要がなくなった。
一通り、いつものようにたわいもない話をした。
「・・・ねえ、また明日ね」
おかしかった。いつも笑顔の彼女の顔が、悲痛に歪んでいた。
「ああ、また明日」
僕は気づかなかった。
いつもは言わない“また明日”を彼女が口にしたことに。
いや、もしかしたら少し疑問には思ったのかもしれない。
けれどこの後の出来事に衝撃を受けて、きっと忘れていたんだ。
その後いつもの笑顔に戻った君は、立ち上がって急に桜の木に駆け寄った。
「ねえ見て!満開の桜の木!綺麗だね」
・・・綺麗だった。満開の桜の木に、寄り添って笑う君。
僕はこの光景を二度と忘れない。
そして彼女の薄桃色の唇が小さく動いた。
「またね。…ソラくん」
・・・え。
どうして・・・。
そのまま彼女は笑顔で病院の方へ走って行った。

翌日、彼女は来なかった。
それどころか来る日も来る日も、彼女は来なかった。
病室に見舞いに行くほどの関係ではない、それでも僕は病院に通い続けた。
一週間後。
「はじめまして」
後ろから声がした。
眺めていた空なんか一瞬で忘れるほどの勢いで、僕は振り返った。
「・・・あ・・・」
いた。君がそこに。いたんだ。確かにそこに。
「・・・っんで・・・!」
視界が涙で滲んだ。
「っなんでだよお!!!!!・・・なんで、死んじゃったんだよ・・・っ」
後ろから声が。聞こえた気がしたんだ。
いるはずのない彼女の声が。
彼女は一週間前のあの日の夜、容態が急変して亡くなったと、看護師さんに聞いた。
「・・・の・・・あの」
「・・・え?」
誰かに呼ばれ振り返るとそこには40代くらい?の女性がいた。
「ソラくん・・・よね?」
「・・・あ、はい・・・」
僕は自分の顔が涙でボロボロなのも忘れ、その女性に見入ってしまった。