「さっさと歩けや! じゃねえとこの場で犯すぞ!」



乱暴に私の腕をつかみ、さっきから荒々しい言葉を浴びせてくるのは、ふたりの見知らぬ男。



『あの街には絶対に近づいてはいけない』

子どもの頃から何度もそう言い聞かせられていた場所に、たった今、足を踏み入れてしまった。



ここは、危険だからと周りが勝手に距離を置く街。


北区、南区、西区、東区、それから中央区といったように土地には普通、区切りがあって個々に名称があるはずだけど、この街には名前がない。


同じ界隈に在りながら、なぜかどこにも属していない

──それが定かなのかはわからないけれど、かつては北区の一部だったらしい。

何十年も前に、追放された……のだとか。



外の人間は、『暗黒街』と呼んでいる。


物理的に閉ざされているわけでもないのに、ここは独立した一つの世界のようだった。