「俺、先行ってるから」


優しくそう言って、丘を上って行った俊くん。


「あ、呼び止めてしまってごめんなさい、菜摘ちゃんに会えて良かったです、元気そうで、良かったです。」

「私も、少しだけど、思い出せてよかった。
鈴ちゃんも、元気そうで良かったよ。」


ぽんぽんと、鈴ちゃんの頭に触れる。

初対面の女の子というくらいの感覚なのに、頭はそう言っているのに、身体は愛しそうに自然と鈴ちゃんに触れていた。


鈴ちゃんは、少し涙ぐんで微笑む。


「お姉ちゃんの、手だ…」


そう呟いた鈴ちゃんに、私も微笑み返す。


「私、菜摘ちゃんたちがまだ入院していた頃、突然病状が悪化して、長い間意識が戻らなくて、」


自分の記憶では無いみたいな知らない映像が、ぼんやりと浮かんで、私は頷く。


「それでも奇跡的に意識が戻って、だけど、目覚めたら、お兄ちゃんもお姉ちゃんもいなくて。」


「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」鈴ちゃんが言うその言葉が、大翔と私のことを指すことがすぐに分かった自分に驚いた。