「こんにちは。よろしくお願いします」
 受付から聞こえた声に、私の心も笑顔も反射的に弾んでしまうようになった。

 三日間会えなかっただけで、一カ月も会っていないみたいに長く感じていた。

 そっと待合室を覗けば、沈みかける夕日を浴びて、碧海さんの顔が茜色に染まり、眩しそうに大きな目を細める。
 今日も碧海さんが、最後の患者さんになりそう。

 診察室に入って来た碧海さんは、浅黒い地黒の肌を引き立てるような、真っ白いTシャツに黒のボトム姿。

 よかった、ボトムが履けるくらい治ってきたんだ。

 毎日通院して消毒をしていたのが三日後になり、傷口は塞がり、かなり乾燥してきて経過は順調。

 そして今日、無事に抜糸が終了した。
「違和感がなくなるまでは、通常だと二ヶ月ほどかかるよ」

「そしたら、僕なら三週間以内です」
 自信たっぷりの余裕な目つきで、院長を見ている。

「完治はどれくらいだと思ってるの?」
 院長の興味深そうな不思議そうな顔。
「完治まで一ヶ月きります」
「半年だよ」
「それは一般の方々です」
 院長も唖然としているけれど、これは、どこからくる自信なの?

「院長がおっしゃる完治は、傷跡が目立たなくなるまでですよね」
「傷跡がなくなるまで」
 “目立たなくなるまで”じゃなく、院長が言うように、“なくなるまで”よ。

「怪我が日常茶飯事の僕にとって、痛いなんて言ってられません。休むことは死活問題です」
「引きつりがなくなるまで、もうひとがんばりだから、きれいに完治しよう」

「外科は短期集中ですよね?」

「そうだけど、俳優さんだから傷跡を残さずに、美しく治してあげたい。僕らは、治療結果が綺麗で当然でなければならないんだよ」

 院長の言っていることが、わかっているみたいに碧海さんが深く大きく頷いた。

「ありがとうございます」
「テレビやスクリーンで観たときに、傷跡が残ってたら申し訳ないからね」
「もうしばらく、よろしくお願いします。しっかり治します」

「無理は禁物。今日で治療は終了だけど、なにか変わったことがあったら、また様子を診せに来て」
「はい」
 これで治療は一段落したから、しばらく碧海さんとは会うことはないでしょう。

 きらきら輝いて見えた景色が、モノクロで味気なくなる。寂しい。
 碧海さんと私以外だれもいない待合室は、すっかり日が暮れていた。