「変なことに巻き込まれてんじゃねぇだろうな」


「そんなこと、分かんないわよ。黎祥、自分の事は一切、話そうとしてくれないし」


辛うじて分かったのは、彼が二十一歳ということくらいだ。


「……嫁入り前の娘が」


「って言っても、私、結婚するつもりないしね」


「本当、どうするんだよ」


「今までの患者でも、あれくらいの年頃の男性はいたでしょう。どうして、そんなにも心配しているの?」


父が死んでから、ずっと、翠蓮にとっての祥基は父のような存在である。


祥基自身もそう言っており、翠蓮と祥基の関係に色恋は絡まない。


「お前の兄貴達から、お前を守るように言われてるしな。お前はどんくさいし」


「兄……そんなことを言いつけていくのなら、自分が守ればいいのにね」


どこまで、祥基に迷惑をかける気だ。


「いや、翠蓮、あのな……」


祥基は何かを言いかけたけど、すぐに言葉を飲み込む。


「何よ?」


「いや、なんでもない」


「……」


いつも、はっきりバッサリ言ってくる祥基の行動を不思議に思ったけれど、翠蓮は特に追求はしなかった。


この時の翠蓮は未だ、兄達への怒りを収められてはいなくて、冷静に話を聞くことが出来なかったからだ。