「長期戦になるだろうけど頑張って」

塾長による、ありがたい受験への心構えの話のお陰で、元から遅かった帰る時間が、もっと遅くなってしまった。金曜、夜11時すぎ。都会。


華の金曜日いわゆる『華金』から、解放された酔っ払った大人たちが、続々と放たれる時間。

秋の夜は涼やかで好きなはずなのに、私はこの街のこの時間は何より苦手だ。
勉強で疲れた気持ちを引き締めるように、顔にかかってきたショートカットの髪を耳にかける。


「ねぇねぇーそこのねぇーちゃぁん」


無視しようとした。それでも、まだ慣れてないから怖いものは怖い。


酔った大人にに絡まれるのは恐怖でしか無い。
早足で歩いて巻こうとした。

だけど、駅に着くまでの信号は運悪く赤で、この大きな横断歩道の前で立ち止まる以外に選択肢はなかった。

「ねぇ、聞こえてるよねぇ〜」


信号を待っている間に、さっきの酔っ払いに追いつかれてしまった。

「あれっ?高校生〜?」
男はそう言いながら私の腕を掴んだ。振り払おうにも力が異常に強くて払えない。


「離してください!」
そう言い酔っ払いの正体を見た。