男はまだ納得できていない表情を浮かべていた。眉間に皺を寄せ端正な顔を歪ませている。

 背が高く無造作な黒髪の合間から鋭い眼光を覗かせ、それだけで他者を圧倒させる力がある。

 部屋には男ふたりと女ひとり、机の上に置かれた見慣れた町の地図を三者三様に見つめ、共に同じ制服を身に纏っていた。

 闇と気高さを表す黒を基調とし、光と礼節を示す赤がラインと裏地に取り入れられている。

 襟元から左側に漆黒のマントがかけられ、さらに肩章、飾緒、フロント部分にシメントリーに並ぶ釦はすべて金で装飾されていた。

 この国の、ひいては近隣諸国の人間が見ればすぐに彼らが何者なのか理解できる。アルノー夜警団の団服だ。

 難しい顔をしていた男、スヴェンは視線を動かし、ついに口火を切った。

「セシリア、お前どう見る?」

 話を振られた女、セシリアは口に手を添えしばし考える素振りを見せた。うしろでまとめ上げきれず、サイドに落ちた柔らかい金の髪がかすかに揺れる。

「なんとも言えませんね、ただ陛下直々の命であり、双璧元帥(アードラー)のおふたりが揃って動くということはそれなりの事案なんだとは思いますが」

「そう深く考えるなよ、スヴェン。我々は命じられたまま動くだけだ。とくに今回は我が夜警団の総長(グランドマスター)であり、アルント王国国王クラウス陛下の勅令だ。余計な詮索は無用だろ」