草原を抜け、森の入り口まで馬を進めたロベルトは、森の中から馬の手綱を手に歩いてくる泥だらけの二人に目を見張った。
「いったい何があったんだ?」
 ロベルトの問いに、アントニウスがアレクシスの鞍留の金具が壊れて落馬し、それを助けようと自分も馬から飛び降りたことを掻い摘んで説明した。
「アレクシス、身体は大丈夫か? 顔色がかなり悪いぞ」
 ロベルトの問いに、アレクサンドラは『大丈夫です』と答えたが、顔色が悪いのは落馬のせいではなく、自分が本物のアレクサンドラだと隣にいるアントニウスに知られてしまったからだという事を知らないロベルトは、馬を反転させると、お供に連れてきている侍医を呼びにテントに戻っていった。
 ロベルトから話を聞いたのか、ジャスティーヌがスカートの裾を翻しながらテントから走り出てきたが、すぐにロベルトに抱き止められ、代わりに馬車が二人を迎えに走り寄ってきた。
「どうぞ、馬車にお乗りください。馬は私共が・・・・・・」
 馬を預け、アントニウスと二人で馬車に乗り込むと、突然、全身の痛みと軋みに襲われ、アレクサンドラは再び意識を失いそうになったが、ここで侍医に体を観られては大変だとばかり、必死に歯を食いしばって痛みを堪えた。
 馬車に運んでもらい、テントまでたどり着くと、ジャスティーヌがアレクサンドラの胸に飛び込んできた。
「アレク!」
 思わず、しっかりとジャスティーヌを抱きしめてしまったアレクサンドラに、鋭い刃のようなロベルトの視線が刺さった。
「もう、帰りましょう。お茶なんて飲んでいる場合じゃないわ」
 何とかジャスティーヌを宥めようとした時、アントニウスが口を開いた。
「殿下、大変申し訳ないが、身体が軋むように痛いので、私もお茶はご遠慮したい。ましてや、アレクサンドラ嬢にしてみれば、大切な従弟の命の危機だったわけですから、今日の見合いはここまでという事にされてはいかがですか?」
 目の前でアレクシスに抱き着く見合い相手の姿に、嫉妬を燃やしかけているロベルトの耳元で、アントニウスが『次はジャスティーヌ嬢とのお見合いですから』と囁くと、ロベルトはすっきりとした表情を浮かべなおし、見合いの終了を宣言した。
 贅沢を尽くして用意されたお茶とお茶菓子やフィンガーサンドイッチ全てが馬車から降ろされることなく、見合いは幕を閉じ、アントニウスの口添えもあり、ジャスティーヌとアレクサンドラは馬車で屋敷まで送って貰う事になった。
 体が痛いと言った割にアントニウスは元気で、再び馬に跨ると、ロベルトと並び二人の乗る馬車の前を駆けて行った。

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