二学期の最終日、今日は待ちに待ったクリスマスイブという年に一度の大イベントの日。街や人は普段より浮かれているような、そんな雰囲気に包まれていた。


その日、私は学校が終わると病院へと足を運んだ。


頭痛が酷く、鎮痛剤を飲んでもなかなか効かなくなり、日常生活に支障が出ていた。
頭痛のほかに目眩や吐き気などの症状もあり、母に相談して病院に行こうということになり、部活を休んで少し遠くにある大学病院にやって来たのだ。


色々な検査を経て、眼鏡をかけた先生と対面した。
白色に満ちた部屋で、先生の神妙な面持ちに心が落ち着かなかった。


「……率直に申し上げます。娘さんの脳には腫瘍ができています」

「えっ?」


母がなにかを聞き間違えたかのように返事をした。
私は目の前の医者がなにを私たちに伝えたのか理解が出来なかった。


腫瘍……って、ガン?


「これからその腫瘍が良性か悪性かを調べていきます」

「ちょ、ちょっと、待ってください……」

「お母さん、お気持ちはわかりますが真実を伝えなくちゃいけないんです」


気が動転している母が次第に涙目になる。
正反対に私は妙に落ち着いていて、震える母の手に自分の手を重ねた。


驚いた母と目が合うと、のどがキュッと締めつけられた。けれど、我慢した。泣けない。まだ、わからない。なにも。


外は寒く、病院内の暖房が強く設定されているのか、窓が曇っている。
換気がうまくされていないのか、頭もぼうっとする。


「……もしお嬢さんの腫瘍が悪性だった場合、五年先の生存率は……五十パーセントほどです」



淡々と話す先生の言葉の意味を必死で頭で追いかける。
心がどんなに拒否しても、耳が声を拾う。
ぐわんぐわん、目がまわっても、意識はしっかりとある。


私の心が崩れていく音がする。