「あ、兄貴・・俺、南から戻ってて
たまたま事務所に寄ったら
陽菜ちゃんが来てるって聞いてさ
ほら、俺、暫く兄貴にも会ってなかっただろ?」
紅太さんはソファからゆっくり立ち上がると
ジワリと後退しながら離れた
「陽菜に触んな」
碧斗さんは変わらず低い声で怒ったままで
「触るって、ほら、
お近づきの印の握手だよ」
「チッ」
あからさまに感情を剥き出しにする碧斗さんと
やんわり躱そうとする紅太さんを
交互に見ていると
「陽菜」
低い声で名前を呼ばれて肩が跳ねた
「こいつに関わるな」
隣に座った碧斗さんの腕の中へ囚われる
関わるなと言われても
単なる挨拶と握手だけだったのに・・・
さっきの状況を思い出したけれど
やっぱり口には出来そうもなくて頷くだけにした
「お~紅太帰ってたのか」
漂う重い空気を破ってくれたのは
更に軽い声を掛けながら部屋に入ってきた一平さん
そのまま気を利かせてくれたのか
紅太さんを連れ出してくれた
静かになったところで
「お仕事終わりましたか?」
勇気を出して聞いてみたのに
「あぁ、終わった
ちょっと外に連れ出したらこれだ」
大した問題でもないはずだったのに
出掛けたことまで遡る碧斗さん
ご機嫌を損ねない為に
良い子で籠に入っていた方がいいのかも
巡る後ろ向きの気分に
小さくため息を吐き出した
そんな嫌な空気を変えたのは碧斗さんだった