奈美さんに涙を見せた日
碧斗さんは帰って来なかった
寝た時と同じ
綺麗なシーツのまま起きた朝
あんなに嫌だった気怠い朝が
どんなに気持ちを安定させていたか
果てしない虚無感に
不安が広がった
「陽菜さん。
今日は外で土いじりしましょう」
朝食の後で作務衣に着替えると
久しぶりに履く靴で気分がいくらか和んだ
家の中を移動するたび
あちこちですれ違う黒づくめの人達は
私の姿を見ると必ず立ち止まって頭を下げてくれる
碧斗さんからは返す必要ないと言われても
同じように頭を下げていた
更に、土いじりには不似合いな
厳つい護衛さん2人も同行した
外に出るには出たものの
着いたのは
螺旋階段を上がった敷地の中にある車庫の屋上だった
・・・少しガッカリ
それでも空を見るのも
風を感じるのも
ここに連れてこられて初めてのことと
両手をいっぱいに広げて
肺にたっぷり外の空気を取り込んだ