・・・・・・どうして


唇を合わせただけなのに
身体が溶けるような錯覚に陥る


角度を変えて続けられるそれと


同時に撫でられる髪に
背筋を初めての感覚が走る




・・・だめっ

・・・だめなのに




気持ち良さが身体中を支配して
頭の中が混乱を始める


一度離れた唇に
チュッと音を立てて啄むようなキスが落とされ

それを最後に唇から熱が離れた

更に身体が離れたことを確認して
恐る恐る目を開けると

すぐ目の前で視線が交わった


「・・・っ」


咄嗟に両手で顔を覆う


「ファーストキスの感想は?」


「耳まで真っ赤」


「初めてにしては上出来」


間近で聞こえる声に


「・・・・・・や、めて」


消えそうな声が震え出す


「やめる?やめて貰えると
 本当にそう思っているのか?」


少し呆れた声と
胸元のネクタイを緩める仕草に

婚姻届と借用証が頭を掠めた


「おいで」


サッと立ち上がった男に手を差し出された


「自分で・・・」


スカートの裾を押さえながら
2、3歩後ずさりして立ち上がる


男との距離を保ちたいと
後退りした所為で


「逃げても無駄」


肩を抱き寄せられ胸へ閉じ込められた


・・・大っきい


180センチはあるだろうか
並んだ男の胸の辺りに顔がくる


そのまま引き摺られるように部屋から連れ出され

また長い廊下を進む

やがて・・・

大きな両開きのドアの前で立ち止まると
男はノブに付いた赤く光る部分に手をかざした

ピピッと電子音が鳴り
青に色が変わると同時にガチャとロックが解除された