「いーくやっ」


放課後、一時間探し回ったあげく、郁也がいたのは屋上だった。

郁也はたいてい、あの空き教室か、裏庭か、保健室にいるんだけど。最近はよくこうやって見つからないような場所に姿を隠している。


「林檎か、びっくりした」

「珍しいね? 屋上にいるの」


そう言いながら、郁也の隣に腰をおろす。最近は、ちゃんと授業にも出るようになっていたのに珍しい。

なんだか元気もないみたいだし、やっぱり何かあったのかも。


「ああ、なんか空見たくて」


私もゆっくり、上を見る。

高くて、真っ青な空。


「空って、郁也みたい」

「ふは、なんだソレ」

「こうやって手をのばすんだけど、」


私は手を上げて見せる。


「捕まえられないの。でもね、なんかあったかくて、包まれてる感じがする」


ゆっくり、横を見る。郁也が優しく微笑んで私を見ていた。


「あったかくて包まれてるって、林檎チャン変な意味で言ってる?」

「はあ?! そんな訳ないでしょ」

「なーんだ、ザンネン」

「この変態……」


なんだそれ、って郁也が笑う。青空の下、郁也と笑っていられるこの瞬間ってもしかしたらすごく幸せなことなのかもしれない。


「ねえ郁也、今日何の日かわかる?」

「さあ、なんだろ」


ホントは知ってるくせに。口角が上がっているのがわたしにはわかるんだから。


「1ヶ月記念日だよ、ばーか」


そう言いながら、カバンから昨日焼いたカップケーキを取り出す。可愛くラッピングされたそれは、まるで私の心みたい。


「はは、覚えてるに決まってんだろ」


郁也が笑いながら、嬉しそうにそれを受け取る。


「ありがと。お前ほんとかわいーのな」


もう、郁也にはかなわないな。カワイイのは、今の郁也の嬉しそうなその顔だよ。


「ん。俺も」


そう言いながら差し出されたのは、透明な袋でラッピングされた花柄のブレスレット。


「安もんでワリィな」