大きな雨粒が、下ろしたばかりの空色のコートの裾を濡らす。吐く息が白く濁る、秋の宵。

 職場である保育園からの帰り道。もうあと数分で住んでいるマンションに着くという場所で、どしゃ降りの雨の中、傘も差さずに歩道に佇む男の人を見かけた。


 道行く人々が訝しげな視線を送る中、その人は気づくこともなく呆然と立ち竦む。


 これだけの雨の中、濡れるに任せているなんて明らかに様子がおかしい。

 他の人たち同様、見なかったことにして通り過ぎようとしたけれど、私はつい立ち止まってしまった。


 すれ違いざまに目に映ったその人の表情が、あまりに悲しげだったから。


 意を決して振り返り、いつまでたっても微動だにしないその人に駆け寄った。

「あの、大丈夫ですか?」

 これ以上見過ごすことができなくて、私は彼に自分の傘を差し出した。