救命の世界では奇跡なんて起きない。


それがこの世界に入って最初に覚えたこと。


元々そんなものは信じてなんかいなかったけど。


それ以上に運命なんて言葉はもっと信じていない。


そんな言葉を軽々しく口にする人間は嫌いだ。


信用出来ない。







ポカポカした陽気のせいで気怠い午後のステーション。


「霜月、ちょっと良いか?」


この人が来ると私の最も嫌いな時期がやって来たと感じる。


「それじゃあ自己紹介な?」


「み、水原紫音です。

先生と会えたこの奇跡に運命を感じます」


会って早々、私の嫌いな言葉を2つも口にした。


「よろしくお願いします!」


そう言って握手を求めて来るけど…。


「宜しくなんてしないから」


握手をすることの意味を見出せない。


それにフェローの指導医を勤めるのは本当に勘弁して欲しい。


「まぁまぁ、そう言うなよ。

水原のことをよろしく頼むぞ?霜月」


困った様に眉を下げて言う青島。


一応、外科部長と言う肩書きを背負っている。


「毎度のことながらどうして私なの?青島。

指導に適した人間なら他に居る」


私がイスに座っているからか、青島を見上げる形になる。


「おいおい、青島先生だろ?

俺の方が立場や歳も上なんだぞ?」


口調は注意しているが顔や雰囲気にはまるで怒気が感じられない。


人が良いのか腹黒いのか、どちらにしろ掴めない人物に変わりはない。