優と私は体育館から少し離れて中庭に移動した。環奈は気を遣って「ここで待ってるね」って言ってくれたけど、こんな風に優が私だけを呼ぶなんて珍しい。
優は長いお説教で息は整ってるものの、まだほんのりと汗をかいていた。
「疲れてない?大丈夫?」
「平気だよ。むしろ久しぶりに本気でやったから清々しいよ」
優は負けてしまったけど、その顔は笑顔だった。
どうしてあんな試合をすることになったのか。
なんで優は私を呼び出したのか。
私はなんとなく気づいている。
優はそんな私の顔を見て全てを分かった上で言ってきた。
「鮫島に勝負してほしいって言われてさ。なんで?って聞いたら負けられない理由ができたからって」
「……」
「最初はなんのことだか分からなかったんだけど、話を聞いてる内にあぁ、そういうことかって納得して」
「納得?」
「俺は両手に花だってさ。だからこれに勝ったら美和をもらっていいかって聞かれた。1番近くにいる男が自分だけだと思うなよって」
以前の私だったら「なんで優にそんなことを言うの?勘違いされたらどうするの?」って怒ったかもしれない。
だけど今ぎゅーっと胸が痛いのは優に対してじゃない。それを真剣に言った鮫島の気持ちを考えたら、どうしようもなく胸がチクチクとした。