その夜は、悶々としてなかなか寝付けなかった。

目を閉じると優しく微笑む千尋先輩と、泣いている先輩の後ろ姿が交互に映し出されて、何とも言えない気持ちになる。


ぎゅうっと締め付けられるような胸の痛みは続いていた。

僕は胸の辺りを押さえて、その痛みに耐える。



高梨先輩が千尋先輩を抱きしめながら、僕に見せたあの勝ち誇ったような笑みは、多分一生忘れられないだろう。



あの笑みの意図は何なのか。


本当に千尋先輩の事が好きなのか?

好きならどうして泣かせるような行動をするのか。



同じ男なのに、高梨先輩の思考回路が理解出来ない。

・・・いや、自分が理解する事を拒否しているようだった。



男なら好きな人を笑顔にするのが、幸せにしたいと思うものじゃないのか?

どうして泣かせる?どうして苦しい思いをさせる?


頭の中でそんな疑問がぐるぐると回って、結局解決する事もないまま、外は明るくなっていった。




お陰で次の日は授業中眠くて仕方なかった。

昼休みも食事も摂らずに机に突っ伏し、少しでも睡眠時間を確保する。


「おい、和、もう少しで授業始まるぞ?」

「ゴメン、あと5分・・・」

「バカ、ここは家じゃねえよ」


真司はそう言って、まだ寝ようとする僕を無理矢理起こした。


午後の授業も半分夢の中で受けていた気がする。

授業の中身は全く覚えていないけれど、完全に寝なかっただけ良しとしよう。


しかしながら不思議なもので、あんなに授業中は眠かったのに、部活の時間になると頭がスッキリと冴えてくる。

誰よりも先に部室へと行き、弓道衣に着替えて練習を始めた。