「オイッ!中田がいねぇぞ!!」
「チッ、アイツ……!!」
遊大と充の叫声が同時に響き渡り、それを聞いた幹部達が顔を見合わせる。
──まさか中田が凛音を?
幹部達には信じられなかった。中田が凛音を連れ去ったという事が。
けれど、充の反応を見ると中田が連れ去ったとしか考えられない。
「一体どうなってんだよ!!なんで中田が凛音を……!!」
意味が分からない。
けれど、充に攫われたのではないという事が少なからず幹部達に安心感を与えた。
心のどこかで感じ取っていたのだ。中田が凛音に危害を加えるような事はしないという事を。
「凛音っ……!」
十夜の表情が苦渋に歪み、伏せられる。
否、十夜だけではなかった。
その場にいた全員が痛む胸を押さえながら行き場のない感情をその表情に浮かばせていた。
胸底から込み上げてくる果てしない後悔。
──何故こうなった?
口には出さずとも全員が胸中でそう思っていた。
「……十夜、なんで今まで言わなかった」
「………」
「十夜っ!!」
珍しく怒りの感情を露にする貴音に十夜は何の返答もしなかった。
──抗争が終わった後、全ての真実を明かすつもりだった。
そんなもの、今となってはただの言い訳に過ぎない。
十夜は言い訳するつもりなど無かった。だから何も言わなかった。