初戦ですべての勘を取り戻した隼人は、その後調子を上げ続けた。


凌空と隼人がほぼメインで投げ、青翔のWエースは"甲子園の申し子"だなんて言われ方もして。


あっという間に甲子園のスターになった。


打線の方もメキメキと調子を上げ、勢いに乗った波は止まることを知らず。


ベスト16…ベスト8…そしてついにベスト4入り。


明日は準決勝というところまで来てしまった。


甲子園に来ることが目標だったのに、こんなに勝ち進むなんて正直びっくり。


だけど、試合を重ねるごとに強くなってるのが手に取るようにわかるんだ。


経験って、人を強くするんだね。


甲子園は、ほんとうにすごい所だよ……。



『ワクワクやドキドキがいっぱいつまってる場所』



広田監督が、5歳のあたし達にそう教えてくれた通り。


あたしは今、そのワクワクやドキドキを自分の胸で体感出来ている……。





宿舎での生活ももう2週間になり、与えられた個室はまるで自分の部屋みたい。


一日が終わって部屋に返ってくると、ホッとする。


今日も消灯時間になり、電気を消してベッドにもぐる。


……。



「眠れない~」



体は相当疲れてるのに、明日が準決勝だと思うだけで目が冴えちゃうんだ。


何度かゴロゴロ寝返りを繰り返していると。


スマホにライトが灯り、そこに映った名前に、あたしは飛びつくよう"通話"をタップした。



「沙月っ!?」


『結良ーーー!』



電話は沙月からだった。


久々に聞く親友の声に、思わず胸が熱くなる。


ここまで全部の試合に応援に来てくれているけど、ネット越しに姿を見るだけで、話は出来てなかったから。