両手を開いて、大きく息を吸う。


土の匂い、肌を撫でる風、真っ青な空、風の音……。


五感を研ぎ澄ませ、全て吸収する。


大観衆を背に受ける自分をイメージしながら……。



───俺はこれから甲子園のマウンドにあがる。





組み合わせ抽選の結果、青翔は大会5日目の第2試合と決まった。


そこまで日にちを延ばせられたのも、運かもしれない。


クジを引いてくれた直哉に感謝だな。





ノックが終わり、グランド整備が行われている。


プレイボールまではあと10分。


ふと、ベンチの中に目をやれば。


制服姿で、せっせとベンチ内を整えていく結良が目に入った。


しばらくその姿を目で追う。



……ありがとう、そしてごめん。


……いっぱい心配かけたよな。




「結良、どう?」



結良の仕事が一区切りついたところで、ベンチの中に入り声を掛けた。



「わっ、隼人っ!」



目をキラキラさせた結良が俺を見つめる。


頬もかなり紅潮している。


暑さのせいもあるが。



「なんかすげー興奮してない?」



俺は笑った。



「うんっ。だってこのベンチも、この手すりも、テレビで見たまんまなんだもんっ。あたしがここにいるなんて、ほんと夢みたいっ」



まるで子供みたいにはしゃぐ結良に、俺まで幸せな気持ちになる。


すげー、かわいい……。


癒される。



「ん?どうした?」



上目使いで見上げられ。


やべっ……


いまそんなこと考えてる場合じゃないんだ。


頬を軽くたたき、顔を正す。