プレイボールは13時。
早めの昼食をとって、只今バスで県営球場まで移動中。
緊張しすぎて、お弁当なんて喉を通らなかったよ……。
落ち着かなくて、歯の奥をギシギシとかみしめていると。
「マネージャー、リラ~ックス」
後ろの座席から、黒田くんが肩を揉んできた。
「きゃっ!」
驚いて声をあげると。
「黒田セクハラー」
「隼人にチクるぞ」
なんて、バスの中はどっと沸く。
みんな余裕があるなあ。
決勝戦なんて何度も経験してるみんなは慣れてるの?
和やかなムードとみんなの笑顔に、だんだんとあたしの気持ちも軽くなっていく。
そうだよね。笑顔でいれば、緊張なんて吹っ飛んじゃう。
どんな時も明るい青翔メンバーが大好き。
もっと、このメンバーで過ごしていたいな……。
負けた時点で終わりだと分かっている夏だけど、そんなことは考えたくない。
一番後ろの座席に座っている凌空だけは、みんなの会話に入らず、真剣な表情でずっと窓の外を見ていた。
球場にはすでにたくさんの観客が入っていた。
ベンチから見る球場の景色は、スタンドで見るものとはまた違う。
一体となってメガホンを振る姿は、波のうねりのよう。
声援は、こだまのように反響しあって耳に届く。
中で見るのと外で見るのと違うのは、大変なことだけじゃなくて、こういう景色ひとつひとつをとっても言えることだった。
今日は沙月や京介くんはもちろん、クラスのみんなも応援に駆け付けてくれるみたい。
みんなの声援が本当に力になるんだってこと、心の底から感じた。
すでに気温は30度に達していて、グラウンドには陽炎も見える。
暑い中、ありがとう……みんな……。