「もー、梅雨なんて日本からなくなっちゃえばいいのに!」
頬杖をつきながら、沙月が窓の外に向かって恨み節を唱える。
天気予報で梅雨入りを宣言してから1週間。
今日は朝から冷たい雨が降っていた。
「出た出た、沙月のそのセリフ」
あたしは笑った。
少しクセっ毛の沙月は髪の毛がまとまらなくて大変とかで、毎年梅雨になるとこのセリフを言うんだ。
「春と夏の間に一旦寒くなるってのも絶対におかしい!」
今日はかなり肌寒く、衣替えして半袖シャツになったばかりだというのに、女子のほとんどはカーディガンを羽織ってる。
うんうんと頷くあたしも、例外なく。
「梅雨ってこんなに寒いんだっけ?毎年経験してるのに忘れちゃう」
花音ちゃんは、手をカーディガンの裾ですっぽり覆った。
そんな仕草はやっぱり可愛くて、この間の言葉がまるで夢の様。
「雨が降っても野球部はお休みにならないしね」
それは、雨でも凌空とデート出来ないことを指してるのかな。
と同時、バーベキューのことを蒸し返されてるような、今までだったら感じなかったトゲを、ほんの少し感じてしまう。
野球部は雨が降ったからってお休みになるような生ぬるい部なわけなくて。
冷暖房完備の室内練習場があるし、そこでの練習に変わるだけ。
"野球は太陽の下で"、がモットーの広田監督だから、どんなに暑い日も寒い日も、基本グラウンドで練習なんだけど……。