一寸先は闇、ということわざを知っているだろうか。


簡単に言えば、未来のことなど予想はできないということ。


そう、思えば私はきっと気が緩んでいたのだ。

意地悪な後輩はあれど、それでもそこそこに幸せな、平穏な生活を送っていたから、このままこの穏やかな小川のような日々が流れていくのだと、勝手に決めつけていた。

どうして、そんな思い違いをしてたのだろう。

どんな人の人生にも予定調和は起こらない。波のない人生なんてありえない。

そして、その波という名の不幸は、忘れたころにやってくるのだと。


「それにしても、この仕打ちはあんまりだ……」

時刻はおそらく、8時。

遠くの方から微かに聞こえてくる、陽気な歌声は今の心情にはあまりにもかけ離れたBGMがますます私を鬱にさせていく。

ふいに見上げた洗面所の鏡の中にいる私は、地獄の淵でも帰ってきたかのように虚ろな死んだ顔をしていた。

かちゃ、と後ろの方から音がして鏡越しに見れば、女子トイレのドアを開けた同い年くらいの女の子2人組が、楽しげに会話していたのにもかかわらず、私の顔を見るなりぎょっとして、逃げるように出て行ってしまうくらいには、酷い面だったらしい。

……そんなひどい顔してたのかな、私。

にい、と鏡の前で試しに笑ってみると、見慣れたはずの自分の顔に鳥肌が立った。

確かに、カラオケの女子トイレの洗面所の前で、こんな顔をしている奴がいたら逃げたくなる気持ちも分からないでもない。


一つため息をついて、私は今陥っている状況を整理するために目を閉じた。