「だから朝ごはんはちゃんと食べなさいって言ったでしょ?」


大樹に支えられて家に戻った私を見て、お母さんは鬼の形相で甲高い声を上げた。

それから今度は正反対の感謝の気持ちいっぱいの殊勝な顔になり大樹に言った。


「ごめんね大樹君。また花乃が迷惑かけて。この子ったら本当だらしなくて、寝坊して朝ごはん抜きなんてしょっちゅうなのよ。
今朝も何も食べないで出かけようとしてね……」


捲くし立てる様に私の文句を語るお母さんに一瞬面くらいながらも、大樹は世の女性がクラッとしてしまう様な極上の笑みを浮かべてお母さんを黙らせた。


「とりあえず花乃を部屋に連れて行きます。早く横になった方がいいと思うんで」

「あっ、そうね……ごめん大樹君、30分くらい花乃についていて貰えない? 私これからお父さんの用で銀行とか行かなくちゃいけないのよ」

「えっ? 何言ってるの? 私は一人で平気だよ?」


スーツ姿で明らかに仕事日だって分かる大樹に良くそんな事言えるなって思いながら言うと、大樹がかぶせる様に声を少し大きくして言った。


「分かりました。俺がちゃんと着いてるから花乃の事は大丈夫ですよ」

「そう。ありがとうね大樹君、じゃあ行って来ます」


お母さんは本当に大樹が大好きだ。

鼻歌でも歌いそうな上機嫌さで出て行った。