それから数日間は、陽介にも夏輝さんにも会わず、いたって平穏な日々を過ごしていた。

ただ、ひとつ気掛かりなことと言えば……。


「お父さん、アザミとタケちゃんに持ってく分用意し終わったよー」


“アザミ”は市街地にある地域密着型のスーパーで、“タケちゃん”という微笑ましい名前はお弁当屋さん。

この二カ所に届ける分の容器を箱に詰め終わった私は、言いながら事務所のドアを開けた。

しかし、パソコンの画面の一点を、ぼうっと見つめたまま動かないお父さんに首をかしげる。


「お父さん?」


彼が座るデスクの真ん前に近付くと、ようやく私に気付いて顔を上げた。


「ん、あぁ悪い、どうした?」


いつものように笑うお父さんだけど、この間からこういうことが多くて、なんだか心配になる。


「お父さん、最近なんかムズカシイ顔してること多いけど、何かあったの?」

「いや、ちょっと帳簿の整理に苦戦してただけさ」


軽く笑うお父さんの手元に乱雑に広げられた書類には、たくさんの数字が並んでいる。

簡単な発注なら私もやれるけれど、他のことはすべてお父さん任せだから、ちらっと見ただけでは何で悩んでいるのかわからない。