「ここか・・・。」
そっと髪をなでる風に舞い踊る桜の花びら。
校門の前に立つ私を迎えたのは、日常とはかけ離れた光景だった。
ロールスロイスやベントレー、マイバッハにメルセデスなど・・・名だたる高級車がずらりと並ぶ、生徒専用の車寄せである。
私は、初めて目にするそんな光景の衝撃に口が開きっぱなしである。

………………………

………………

…………

私は山田唯衣。、今日からあの私立檜山学園の女子高生。私立檜山学園は小学校、中学校、高校の一貫校。ヨーロッパのお城のような外観が特に人気らしい。さらにセキュリティー対策もばっちりで、保護者からの信頼も厚い。子供を安心して預けられるという評判もあってか、生徒は政財界のトップの娘や、警察官僚の息子など、高い授業料と多額の寄付金を難なく支払えるお嬢様やお坊ちゃまだけ。
でも、私は違う。ごく普通の公務員の娘。どっちかって言うと貧乏な方に入る家庭。
でも、受験勉強を必死に頑張って、たった一人しか入れない授業料全額免除の奨学生の枠に入れてもらったのだ。
私がそんなに勉強を頑張ってこの学校に来た目的はただ一つ。それは……、

お金持ちでイケメンの男子を見つけて、結婚して、玉の輿にのること!お金持ちになってずっと幸せに暮らすのよ!おーほほほほほほ……げほごほっごほっげほ…

ちょっとお見苦しいところをお見せしてすみません…それでも、檜山学園に入れたからには何としてでもいい旦那さんを見つけるんだから…!!
そんな事を思いながら、空に向かって拳を突き上げていると・・・
「ふふっ…ゆいなにしてるの?」
「あっ、かな!」
この可愛い女の子は野村奏。あの有名なノムラ製菓のご令嬢である。中学校からの同級生なの。
「ゆい、目立ってたよ?みんな見てたもん。」
「あぅ…、ちょっと色々あって…」
「はいはい、わかった。あっ、クラス貼り出されてるよ、見に行こっ!」
「うんっ!」
かなと一緒だといいなぁ…えーっと…あっ私2組だ!
「ゆい何組だった?」
「私2組だよ、かなは?」
「私も2組だったよ。今年もまた一緒だね~」
「うん、一緒でよかった!」
「ふふふっ、そうだね。」
うちの中学からは女子は私とかなだけだから、かなと同じクラスなのって心強い。

『ねぇ、ねぇ!あの人誰かな?めっちゃかっこいい!!』

そんな声が耳に入ってきて、振り返ってみると・・・、
この世の人物だとは思えないくらい端正な顔立ちをしていて、スタイルも抜群の人がこっちに向かって歩いてきていた。
わぁ、かっこいい・・・。みんな振り返ってるし・・・。

あんな人が彼氏だったらなー・・・。
そうだよ!あの人いいじゃん!

「私声かけてみようかなぁ…」
「ちょ、やめなって!絶対相手になんかされないよ!」
「だよねぇ…私なんかが無理だよね…」
でも今行かないと誰かに取られちゃう…そんなの嫌だっ!
『めっちゃかっこいいー!』
今行かなきゃ、きっと後悔する。
「…今だ、今しかないっ!かな、ちょっと行ってくる!!」
「え、ちょ、ゆい?!」

これは今行くしかない!

「すみません…初めまして、私は1年2組の山田唯衣と言います。あなたのお名前は?」
「三浦葵ですけど…」
「三浦葵ね…うん、覚えた!」
三浦葵くんか。何か聞いたことあるような名前だな・・・、気のせいか!
「あっ、ごめんなさいっ!三浦くんは1年ですか?」
「うん1年。」
「私も!これからよろしくね!」
やった!とりあえず知り合いになれたぁ~!これから何とかお近づきになって…、
「って、俺のことほんとに覚えてないの?ゆ・い・ちゃん。」

………え、?

「私あなたとどこかでお会いしたことありましたっけ?」
「ほんとに覚えてないんだー俺は小学校の時の、あのぽっちゃりの同級生の“葵くん”だよ」
「えっ!」

えーーーーーーっっっっっっ!!!!!

「嘘でしょ‼?ほんとに?!」
え、ちょっとありえない……!
さすがに信じられないってば、!
あの葵くんがこんなにイケメンになってるなんてっ‼‼

あれは小学生のとき……

『うぇーい、ぶーた!ぶーた!』
「や、やめてよっ、やめて……ッ」
あれは小学校6年生のとき。葵くんはクラスの中心的な男の子達にいじめられていた。
そのときの葵くんは、今よりもずっと太っていて、今よりもずっと弱かった。
だからか、卒業までずっとクラスの男の子達にいじめの標的にされていた。
小学校卒業後は、中学校に入る前にお父さんの転勤の都合で引っ越しちゃったから、その後のことは何にも知らないんだけど…………。
ってそんなことは置いといて……葵くんが何でここにいるの?!
ここにいるってことは葵くんのお家ってお金持ちだったのかな?!
こんなの、漫画とかアニメみたいな展開じゃんかっ!
なんかどんどん面白いことに……笑
ってことは葵くんをモノにできれば…………
うふふふふふふふふふふふふ…………。

ぼーっと妄想を膨らましていたら、目の前にいた葵くんが……、
「そっか……ゆいちゃんは覚えてないんだね……。」
って泣きそうな顔で言い出すから
「えっ、ちょっとそんな……っ!」
って、私がおろおろしたら葵くんは突然笑いだした。

「ふっ、あははははっ!」
「え?」
葵くんが突然笑い出すから周りの人たちにめっちゃ見られた・・・。
っていうか、めっちゃ笑顔可愛い・・・。
「あー、唯衣ちゃん面白い。いじりがいあるね。」
「も、もう!葵くんったら!」

あれ、何かいい感じにしゃべれてない?
若干馬鹿にされている感が否めないけど、こうやって二人で歩いてると、カレカノにでもなった気分・・・。

「ねえ唯衣ちゃん、こうやってまた会えたんだし僕と仲良くしてくれる?」
「も、もっちろん!ぜひぜひ仲良くするさ!」

くすっ、

「変わってないなー唯衣ちゃんは。やっぱり面白いよ。これからよろしくね」
「え?うん!よろしくね!」

とりあえず、繋がりが出来たー!
葵くんゲットするぞ!

そう息巻いて喜んでいた私は、周りの冷たい視線に気づいてなかった。