「志帆(しほ)、遅いよ〜!」
先にカラオケに入っていた親友の杏(あん)が、遅れて来たあたしに可愛らしく頬を膨らませる。
「ごめんごめん!」
あたしはそんな杏の隣に座りながら素直に謝った。
そして、カバンをソファーの端に置いて背もたれに体を預ける。
「真田(さなだ)君、なんだったの?」
向かい側にいるもう1人の親友の真美(まみ)が、ウーロン茶に手を伸ばしながら興味津々の目を向けてくる。
「…………」
あたしは真美の質問に答えることが出来ずに口を結んだ。
もう思い出したくもないさっきの出来事が脳裏に浮かんで、胸が苦しい。
真田 一(さなだ かず)。
それは、たった今別れたあたしの元彼のこと。
「どうしたの?何か言われた?」
黙り込んでいると、杏にも顔を覗き込まれてますます答え辛くなってしまった。