部屋に足を踏み入れた途端に異様な臭いが鼻をついた。
これは、血の臭い。
そうすぐに理解できてしまうのはこれが初めてのことではないからだ。
だが未だにこの血生臭さに慣れることはない。


「菜々美」


部屋に彼の声が響く。
寒いのか、彼の声は震えていた。
2月、雪の日。
暖房のないこの部屋に長居すれば体が冷えるのは当然のことである。


「どうしたの、夏目。そんなに汚れて」


赤い液体が、彼の全身を濡らしていた。
そんな彼の横に“落ちている”血塗れの死体。
かろうじて捉えられるその死体の顔には見覚えがあった。