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背中を向けて去って行く蒼介さんを
見ながら

何が起こったのかわからなかった。


今朝玄関をあけて、
もしいつものように蒼介さんがいたら

いつも通りにちゃんと笑おうと思った。


でも、もう、来ないかもしれない…
とも思った。


昨日、女の人と一緒にいたから。


それでも、
蒼介さんはいつも通り、
うちの前に来ていた。


機嫌がすごく悪くて

なにかに怒っていて

でも、

私は蒼介さんがなにに怒っているのか
全くわからなくて

いつも通りに振る舞うことしか
出来なかった。

蒼介さんの口から次々と
こぼれだす言葉に

冷たく言い放たれる言葉に

なにも考えることが出来なくなった。


どうして蒼介さんが
そんなことを言うのかわからなかった。



気がついたときには
乱暴に壁に押しつけられていた。


力任せに体を押しつけられて

蒼介さんが、
なにを、しようとしているのか、

自分がなにをされているのか、

さすがに私でもわかった。


怖くなかったと言えば嘘になる。



でも、それよりも、


恐怖感よりも
ただ、哀しかった。


どうしようもなく
哀しかった。